この記事の対象
●配偶者の駐在に家族帯同する際、国内での仕事をそのまま海外でリモート社員として行う予定の方、またはそういった調整を行おうとしている方向け。
この記事の概要
●しかし、社会保険面で不利益になりがちな形態の契約に変更されるケースがある。
●海外移住先で引き続き日本での仕事を続ける際、雇用契約をそのまま継続できる可能性があるため、会社には慎重に確認をとった方が良い。
この記事の執筆者
社会保険労務士 ジュン社会保険労務士事務所代表 山本惇 先生
リモートワークの普及に伴い、帯同家族でも日本での仕事を続けられるケースが出始めている
昨今のリモートワークの普及に伴い、働く場所が縛られなくなっています。
たとえば、配偶者の駐在先に帯同する時、日本での仕事を続けられるケースが出始めています。
しかし、会社との契約形態が直接的な雇用関係からフリーランスとしての業務委託に変更されるなど、社会保険などの面で未だに不利益を被る場合があります。
この記事では、日本での仕事を持っていく際、基本的に雇用契約をそのまま継続できるということと、雇用契約を続ける際の注意点をお伝えします。
配偶者の駐在先に帯同するとき、日本での仕事を続けられうケースが出始めている
最近ではコロナウイルスの影響もあり、働く場所に縛られないテレワークの働き方が増えています。
以前だと会社に出社しないと会議や作業が行えませんでしたが、最近ではZoomやクラウドを利用してどこでも作業が行えるようになっています。
実際に令和3年度のテレワーク人口実態調査では、27%の方が雇用型テレワーカー(雇用型就業者のうち、テレワークを実施している人)というデータも出ています。
そのため場所は関係なく海外からでも日本の仕事が行えるケースは増え続けていますし、今後さらに海外から日本の仕事を行う人は増えると予想されます。
海外から働く場合でも雇用契約を継続できる根拠
雇用契約が海外から働く場合でも継続できる根拠としては雇用契約の対象者と各種保険の被保険者から読み取ることができます。
雇用契約の対象者
まず雇用契約は、正社員やパートタイム、アルバイトなどの雇用形態に関わらず対象となります。
雇用契約は、労働者が事業主に雇用されて働き、それに伴う対価を払うことに企業が合意することで成立します。そのため雇用契約が継続できるかどうかは、働く場所ではなく、事業主との雇用関係の有無が重要ということがわかります。
国外で働く場合の雇用契約について
基本的に国外で働く場合でも、国内企業との雇用関係が継続していれば雇用契約を解消する必要はありません。
従って、労災保険や雇用保険、健康保険や厚生年金保険は現状通り継続することができます。
実際、雇用保険の被保険者では、常用・パート・アルバイト・派遣等、名称や雇用形態にかかわらず① 1 週間の所定労働時間が 20 時間以上で② 31 日以上の雇用見込みがある場合に雇用保険の対象となります。
そのため国内からの出張、出向、派遣によって国外で就労する場合でも、国内事業主との関係が継続していれば被保険者になれるのです。
こちらは雇用先との業務に関係ない形で国外に行った際にも同様です。つまり配偶者の都合で海外に行った場合でも、国内企業との雇用関係が続いていれば被保険者を継続することができます。
雇用保険が継続できるかを考えるポイントは事業主(企業)との雇用関係
雇用保険を継続できるかどうかを考えるポイントとしては、事業主と従業員の雇用関係です。
基本的に上記でも述べた通り、日本との雇用関係が継続していれば、雇用契約も変化することなく継続します。
そのため雇用契約から業務委託契約に変更する必要はなく、配偶者の都合等で海外に行った場合でも既存の契約のまま駐在先で仕事を行う事ができます。
また駐在員として海外支社などに勤務する場合でも、日本企業との雇用契約がそのままであれば雇用契約も変わらずに継続することができます。
雇用契約を続ける際の注意点
必ず事前に企業に確認を取る
海外での駐在など、海外での移住先で働くことが決まった場合は一度しっかり会社に確認するようにしましょう。
上記でも述べた通り、国内企業との雇用関係が継続していれば雇用契約は解消する必要はありません。
しかし、企業によっては「定期的に会議にはオフラインで参加してほしい場合」や「契約更新は直接行う企業」などの条件を設けている場合があります。
在宅勤務だから関係ないと企業の許可なく海外に行ってしまった場合、労働条件(時差による勤務時間の変更や休みなど)の変更ができず企業の求める労働を提供できなくなってしまう可能性があります。
企業によって、そのあたりの対応は異なるので、事前にしっかり企業に確認を取り、問題が拡大しないようにしましょう。
雇用契約期間をあらかじめ確認する
雇用契約には期間の定めのある有期雇用契約と期間に定めのない無期雇用契約があります。
無期雇用契約で雇用されている場合は大丈夫ですが、有期雇用契約の場合は一部例外を除き、3年を超える期間の契約をすることができないとされています。(労働基準法第14条)
例外事項
・高度の専門的知識を有する労働者
・満60歳以上の労働者
・一定の事業の完了に必要な期間を定める場合
有期雇用契約の場合は、契約期間が満了した時に雇用契約も終了してしまいます。有期雇用契約期間中に、改めて有期雇用契約や無期雇用契約を結ぶことも可能ですが、労働形態によって切り替えられないケースがあるため、事前に確認し駐在先で契約がきれないようにしましょう。
企業は雇用契約よりも業務委託契約にしたい認識を持っておく
企業から業務委任契約への切り替えを提案された時のために、企業が業務委任契約に切り替えたい意図も知っておいたほうがいいでしょう。
まず雇用契約は業務委託契約に比べ、保険や納税の観点から大きなコストがかかります。
その分業務委託契約だと労働・社会保険の負担も一切適用されませんし、納税の当人で行うので企業の負担がありません。
また海外駐在先で雇用契約のまま働く場合は、就業規則の追記や海外在住規定の明記、労働条件の調整を行わければならないなど、様々なコストがかかります。
こういった理由から企業は雇用契約よりも業務委任契約に切り替えたいという思いがあるのです。
まとめ
配偶者の駐在先に帯同する場合などでも、国内企業との雇用関係が成立している場合は原則雇用契約は継続することができます。
業務委託契約だと「雇用保険に加入できない」、「税金などの手続きを自分で行う必要がある」などのデメリットがあるため可能であれば雇用契約を継続したいはずです。
しかし、時差などにより企業の求める労働を提供できない場合には注意が必要です。
もし配偶者の海外駐在が決まって海外にいかなければ行けないとわかった場合は、速やかに企業に確認をとり、労働時間や休日の確認を行うようにしましょう。